PART13 特殊知覚(視覚、聴覚、嗅覚)の問題
盲目とは両目の視力が喪失した状態のことです。動物の視力を人間と同じように測定するのは不可能であり、信頼性のある測定法は確立していません。障害物を避けて歩くか、目の前でものを落下させて眼で追うかどうか、指などを眼に触れないようにして近づけたとき瞬きをするか、などによって視力の有無を判定しますが、正確な判断は困難な場合があります。視力には問題がないのに刺激に対する反応が低下、欠如しているような場合、片目の視力だけが喪失している場合、動物が盲目の状態に適応してしまい大きな不自由を伴わずに行動しているような場合などは、さらに判断が難しくなります。
考えられる主な疾患
眼球に問題がある場合;角膜炎、角膜ジストロフィー、眼房水の混濁、白内障、硝子体出血、網膜症(網膜萎縮、猫のタウリン・ビタミンE・A欠乏、緑内障など)、網膜剥離症候群(コリー眼異常、FIP / FeLV /トキソプラズマ/ ジステンパー感染、高血圧、腫瘍など)
視神経および大脳に問題がある場合;先天性の形成不全、腫瘍や肉芽腫性髄膜脳脊髄炎などの増殖性・占拠性疾患、感染および炎症性疾患(ジステンパー、FIP、真菌など)、水頭症、代謝性疾患(肝性脳症、沈着症など)、低酸素症、脳梗塞、脳浮腫・出血など
瞳孔とは、人間で言う「ひとみ」、つまり虹彩で囲まれた黒目の部分を言います。瞳孔は明るい光の刺激で収縮し、暗くなると散大するように、自動的に調節されています。また瞳孔は、自律神経の支配も受けており、交感神経の刺激により散瞳し、副交感神経の刺激により縮瞳するように調節されています。正常な動物では、左右の瞳孔はほぼ同じ大きさになるように調節されています。左右の瞳孔の大きさが不対称になっている場合は、眼球もしくは瞳孔の運動を調節している神経の異常と判断されます。
考えられる主な疾患
眼球に問題がある場合;前ブドウ膜炎、緑内障、虹彩括約筋萎縮、虹彩 形成不全、角膜潰瘍、水晶体脱臼、過熟白内障など
神経系に問題がある場合;視神経および視索・中脳・動眼神経・副交感神経の障害(炎症、梗塞、腫瘍その他の圧迫など)、ホーナー症候群(中耳炎、頸部交感神経幹の圧迫)、猫の自律神経異常(キー・ガスケル症候群)など
眼球の運動は、主に動眼神経、外転神経、滑車神経によって直接支配されています。またこれらの神経は三叉神経や顔面神経、前庭神経などの神経に間接的に影響を受けています。これらの神経に異常があると、左右の眼の位置がずれて「斜視」になったり、眼球が左右あるいは上下に揺れる「眼振」を起したりします。また、眼球の上下の軸が傾く「回転・回旋」がみられることもあります。これは猫のように縦長の瞳孔を持った動物では比較的容易に確認できますが、犬や人間のように丸い瞳孔をした動物では確認するのが困難です。
考えられる主な疾患
動眼神経・外転神経・滑車神経およびその起始部である中脳の障害(感染、炎症、出血、梗塞、腫瘍など)、先天性内斜視、水頭症など
眼内、あるいは結膜や強膜、角膜など眼の表面にうっ血や出血、炎症や著しい血管の新生などがあるとき、眼が赤い、いわゆる「レッド・アイ」という状態を呈します。このような時は大抵同時に痛みを伴うのが普通 なので、眼を細めたり涙の流量が増加したりします。
考えられる主な疾患
眼内の赤み;前房出血、硝子体出血、先天性異常(コリー眼異常、一時硝子体遺残など)による眼内出血、眼内腫瘍、凝固障害による出血、アルビノ(正常な眼底反射)
眼の表面の赤み;結膜炎、上強膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、角膜腫瘍、前ブドウ膜炎、緑内障など
動物が眼に痛みを感じているとき、痛いほうの眼を細めたり、擦ったり、瞬いたりします。また、光を嫌って暗いところに隠れたり、元気・食欲が低下したり、過度に寝てばかりいたりなど、眼の不快感とは一見直接関係がないような症状を示すこともあります。眼球表面 の痛みは三叉神経を介して中枢に伝えられ、動眼神経を刺激して瞳孔の著しい収縮(毛様体筋痙攣)を引き起こし、これが更なる痛みの原因となります。
考えられる主な疾患
異物や眼瞼内反、異所性睫毛などの物理的原因、角膜潰瘍、角膜の擦過傷、結膜炎、前ブドウ膜炎、緑内障、涙量 の低下など
上記以外に、比較的発見されやすい眼の異常が幾つかあります。 動物には、眼の内側下方に瞬膜(第三眼瞼)という膜があり、眼球が後方に引いたとき眼球表面 を覆って眼を保護する役目を果たしています。この瞬膜が突出して眼瞼の内側に収まらない状態になったものをチェリーアイといいます。
角膜の浮腫、色素沈着、血管新生などにより角膜の透明度や色調が変化します。これらは角膜炎や角膜穿孔などにより引き起こされます。角膜の脂質、カルシウムなどの沈着、あるいは角膜ジストロフィーなどでも角膜表面 の変色(白濁)が見られます。
前眼房に炎症産物や膿、フィブリン、高脂血症によりコレステロールの一種が沈殿すると、前眼房の白濁が見られます。 水晶体〔レンズ〕の白濁は白内障、核硬化症でみられます。
犬や猫などの動物では臭いの感覚(嗅覚)が非常に発達しています。この能力を活かして、特に犬では、狩猟や追跡、麻薬や爆発物の探知などに利用されています。しかしこれらの特殊な目的に使用されている犬を除き、嗅覚の障害を見つけることは非常に困難です。
嗅覚は、鼻粘膜の上皮にある受容体で感知され、嗅神経(第I脳神経)を通 って大脳の先端にある嗅球へ達しています。また鼻粘膜には三叉神経の上顎枝が分布しており、ある種の刺激に対して感受性が高くなっています。
嗅覚の異常を検出する方法としては、好きな餌に覆いをして見えないようにして、動物に見つけさせる、あるいはアルコールやベンジンなどの嫌な臭いをかがせるという方法があります。アンモニアなどの強い刺激臭は三叉神経を刺激してしまうので、嗅神経の異常を検出出来なくなる可能性があります。
考えられる主な疾患
鼻腔の疾患;ウイルス・細菌・真菌の感染による鼻炎、鼻腔内腫瘍、鼻腔の閉塞など
神経系の疾患;糖尿病・副腎皮質機能低下症・甲状腺機能低下症などの代謝性疾患、ウイルス・細菌・真菌感染、嗅球付近の腫瘍、外傷による嗅神経の断裂・圧迫など
犬や猫の難聴を確認するのは、音や音声に反応して行動するように訓練された特殊な犬を除いては、非常に困難です。難聴は、先天性のものと後天性のものに分類することが出来ます。先天性の難聴は被毛の色に関連性があります。白い被毛と青い眼を持つ猫は大抵難聴です。白色長毛の猫にはしばしば完全な難聴がみられます。また犬では、ダルメシアンの難聴の発生率が高いようです。
考えられる主な疾患
先天性奇形、老齢による変性、甲状腺機能低下症、内耳神経(第XIII脳神経)の腫瘍・損傷、中耳炎、内耳炎、中毒性(アミノグリコシド系抗生物質)、頭部の損傷など
|